Bi-Digital O-Ring TestによるChlamydia感染症の臨床
会員 下津浦 康裕
(共鳴
Vol.2 No.3&4, p.8-13, 1988より抜粋)
クラミジア感染症は太古より知られ
1)今日世界各国で大流行し,注目を集めている疾患です。しかし,これまで診断の難しさからその実態は良く掴めていなかったのが現状です。今回、私はBi-Digital O−Ring Testをクラミジア感染症の補助診断として応用し良好な成績を得ましたのでご報告します。1)対象と方法
1)1987年11月から1888年2月までに一般内科外来を種々の訴えで受診した患者116例を対象とし,全例にBi-Digital O−Ring TestによるChlamydiaの反応性を調べた。
対象者:116例
男性:
62例(Mean age=41.2±15.9)女性:54例(Mean age=43.7±14.6)テストサンプル:ダイナボット社製クラミジア抗体
2)外来受診者116例中Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydiaの反応陽性70症例と,コントロールとして反応陰性10症例を対象とし,全例に咽頭スワップよりダイナボット社製クラミジアザイム検査と血中オウム病抗側面を測定した。血中オウム病抗体価は8倍以上を陽性とした。
Control(Chlamydia反応陰性)群:10症例(Mean age=45.7±12.2)
Chlamydia(Chlamydia反応陽性)群:70症例
男性:40症例(Mean age=40.9±15.4) 女性:30症例(Mean age=44.4±13.9)
2)成績
1.Bi DigitalO−Ring Testによるクラミジア陽性率
全例にダイナボット社製クラミジア抗体をテストサンプルとしてクラミジアの反応性を調べた.+2以上のクラミジア反応陽性を示したものは70症例で陽性率は60.3であった。性別に陽性率を検討すると,男性は62症例中40症例(64.8%)で、女性は54症例中30症例(55.5%)でやや男性に多い傾向にあった。(図1)
2.コントロール群の陽性率
Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydia反応陰性10症例のクラミジアザイムと血中オウム病抗体価の陽性率を検討したところ10例中1例10%にクラミジアザ イム陽性者が見られた。(図2)
3.クラミジア群の陽性率
Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydia反応陽性者70例中のクラミジアザイムと血中オウム病抗体価の陽性率を検討したところ70例中32例45.7%にクラミジアザイム陽性者が見られ,14例中20%に血中オウム病抗側面が8倍以上の抗体陽性者が見られた。クラミジアザイムと血中オウム病抗体価の両方とも陽性は5例7%であった.クラミジアザイムに使用してある抗体はChlamydia Trachomatisとオウム病の病原であるChlamydia Psittasiの両者を認識するためどちらか一方でも陽性であればクラミジア陽性として検討すると,70例中41例(58.5%)に陽性者が見られた。(図3)性別では男性60%,女性57%と有意差はみられなかった。
4.クラミジア陽性群の性別,年代別分布
Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydia反応陽性70症例の性別年代別分布を調べると男性は40歳台に女性は50歳台にピークをもつ分布がえられた.(図4)
5.Chlamydia反応陽性者の自覚症状
Chlamydia反応陽性70症例の自覚症状を検討してみたところ,全身倦怠感,身体の冷え,感冒様症状(鼻炎,咽頭痛,咳),眼症状(腫れ,痛み),耳症状(耳鳴り),上腹部症状(心窟部痛,悪心),下腹部症状(下痢,便秘),泌尿器症状(膀胱炎),婦人科症状(生理不順),神経症状(頭痛、項頸背部痛,腰痛,四肢のジビレ),皮膚症状(湿疹)等が見られた.(図5)又,クラミジアとオウム病を疾患別に自覚痘状を検討してみると,両疾患に有意差は見られなかった。
6.Chlamydia反応陽性患者の治療経過
O−Ring Testによる反応陽性部位を調べてみると全身型が圧倒的に多く次が躯幹型で局所型は咽頭,気管支,肺,すい臓,腎尿路,生殖器に多く見られた.全身型をエリスロマイシンで治療していくと末梢から反応は消失し,躯幹型となり頭部の方から 咽頭,気管支,肺,すい臓,腎尿路,生殖器と下腹部の方へ順次消失してくる。(図7) Chlamydia反応全身型のエリスロマイシンによる治療経過を検討すると,反応消 失まで平均4.8週であった.Chlamydia反応陽性者にシステインが+反応を示すことからシステインを投与してみた。すると,反応消失まで平均2.7週であった。
考案
クラミジア感染症は性行為感染症(STD)として知られ,2)STDのもっとも多い原因として考えられている.近年クラミジア感染症の増加とともに無症候性感染者が激増していることが報告されている。米国のMayo Clinicではウイルス系検査の中で全体の約3割を占めるようになってきており,3)その臨床的関心の高さが伺い知れる。これまでSTD以外の科の発生頻度は1〜9%程度と考えられていたが,2)今回のO−Ring Testによる検討では一般内科外来受診者116例中70例実に60%にクラミジア感染の疑いのあることが分かった。しかし,国内の最近の報告を調べてみると,抗体保有率は女子大学生の24%,妊娠女性の42%に性器感染が確認されており,多過ぎる数字ではないと考えられる。4)本当に一般内科外来患者の6割にクラミジア感染があるのだろうか。O−Ring Testによるクラミジア反応陽性を現時点の医学検査手法でどの程度診断できるかを検討する必要があると考えられた。0−Ring Testが現段階では最終診断と成りえないという理由と,0−Ring Testのテストサンプルに使用したダイナボット社製クラミジア抗体が性病クラミジア(Ch.Trachomatis)とオウム病(Ch.psittasi)に共通抗体であるという理由から,診断を目的にChlamydiazyme検査と血中オウム病抗体価の測定を行った。0−Ring TestでChlamydia反応陽性70例中,男性は40例で女性は30例であった。Chlamydia反応陽性者中の45.7%にクラミジアザイム陽性者が見られた.このクラミジアザイム陽性率45%は妊娠女性の陽性率42%と大差ない結果であり,全体からみても28%でやはりこれまでの報告と大差ない結果であった.この結果から言えることは一般内科外来患者のなかで28%程度クラミジア感染者が見られるが,診断の最初の段階で0−Ring TestでChlamydia反応陽性を確認した後にクラミジアザイム検査を行えば45%にまで陽性率を上昇させることが出来る.言い替えれば,陽性の可能性のあるChlamydia反応陽性者群をスクリーニング出来ると言うことである。診断の初期の段階で0−Ring TestによるChlamydia反応を確認すれば,陰性の可能性の高い患者に無駄な検査をせずに済むし,医寮費の節約にもなり大変意義深いことであると考えられる。もう一つのクラミジア感染症であるオウム病についても検討した.血中オウム病抗体価が8倍以上の抗体陽性者が20%に見られ,全体では12%であった.近年,オウム病の報告が多数見られるようになっているが12%はかなり高率と言わなければならず,今後充分臨床病態を捉え検討していく必要があるものと考えられる。クラミジアザイム検査と血中オウム病抗体価の両方とも陽性は5例,7%で,全体で4%であった。クラミジアザイムに使用してある抗体はCh.TrachomatisとCh.psittasiの両方を認識するため,どちらか一方でも陽性であればクラミジア陽性として検討すると,58.5%に陽性で全体で35%の陽性者が見られた。性別でクラミジア陽性率を調べると男女間に有意差はみられなかった。クラミジア感染症は性行為感染症として扱われており,これまで性行為の活発な年代を対象として報告されている.その為か20歳代にピークがあり年代が上がれば低下してくると考えられている。5)しかし,Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydia反応陽性者の年代別分布を調べると,男性は40歳代に女性は50歳代にピークを認めた。今回の検討で壮老年代にも多数認められたことは,必ずしも性行為の頻度とは相関しておらず,感染経路としてこれまで言われているように本当に性行為感染が主であろうかと考えさせられるのである。Chlamydia反応陽性者の家族を調べると殆ど全例同じようにChlamydia反応陽性となり,家族内感染が多いという実態も今回の検討から分かってきた。感染経路として手を触る程度の接触感染からもかなり感染してしまう可能性のあることが考えられた。 Chlamydia感染症の臨床病態を調べるため自覚症状を検討した。自覚症状として全身倦怠感,身体の冷え,感冒様症状(鼻炎,咽頭痛,咳),眼症状(腫れ,痛み),耳症状(耳鳴り),上腹部症状(心窩部痛,悪心),下腹部症状(下痢,便秘),泌尿器痘状(膀胱炎),婦人料症状(生理不順),神経症状(頭痛,項頸背部痛,腰痛,四肢のシビレ),皮膚症状(湿疹)が見られた。特に多いのは全身倦怠感,感冒様症状(鼻炎,咽頭痛,咳),上腹部症状(心窩部痛,悪心),頭痛,項頸背部痛で,性行為感染症としての症状は比較的少なかった。これはクラミジア感染症が全身疾患であることを物語っているのではないかと考えられた。咽頭炎,結膜炎と関節炎を起こすReiter痘候群はクラミジアが原因であるとも言われており,また男性同性愛者にクラミジア直腸炎が多いという報告も多くなってきている。このように徐々にではあるが子宮頚管炎や前立腺炎といったSTDの病態だけでなく広く,全身に病気を起こしていることが明らかにされているのである。治療に関しては米国ではテトラサイクリンやエリスロマイシンが推賞されている。0−Ring Testしてみてもこういった薬剤は,有効である+反応がでる.エリスロマイシンで治療してみると,Chlamydia反応陽性患者の平均治療期間は4.8週で大村教授の言われる6週程度の投薬を余儀なくされるのである.しかし,わが国の感染症に対する考えではエリスロマイシンの長期投与は特別の場合をのぞいて認められていない。この点で治療がかなり困難となる。私はクラミジアの家族内感染を調べているうちに私の外来を訪れた親子4人家族の中で生後5カ月日の子供にだけクラミジア反応陰性であることをみいだした.不思議におもい調べてみると,その子供だけがシステインの入ったミルクを飲んでいたのである。システインのクラミジアに対する反応を調べてみると非常に強い+反応がみられた。そこでシステインで治療してみたところChlamydia反応陽性患者の平均治療期間は2.7週と短縮され、エリスロマイシンと併用することにより更に短縮される結果が得られた。今回の検討はクラミジア感染症がこれまで考えられているよりはるかに多彩な臨床病態をひきおこしている可能性のあることを物語っており,これまで感冒,気管支炎,結膜炎,過敏性大腸症候群,慢性膵炎、偏頭痛、肩懲り,腰痛症,ギックリ腰,慢性膀胱炎,子宮頚管炎などと考えられたり,多彩な症状の為自律神経失調症や更年期障害と考えられていたものの中に,このクラミジア感染症が多いのではないかと推察された。今後,0−Ring Testから得られた新しい知見が現代医学的にも確認されることが望まれる。原因が良く分からず苦しむ患者の症状を少しでも軽減できれば,0−Ring Testは患者にとって福音でもある。現代医学的診断の第一次スクリーニング検査として多くの医者が活用すれば無駄な検査をせずに済み,多額の医寮費を使わず素早く的確な診断に到達できるのではないかと考えられる。
まとめ
内科外来患者
116例にBi-Digital O−Ring Testを施行し,Chlamydiazyme検査とオウム病抗体価の陽性率を検討し次の結果を得た。@
116例中,Bi-Digital O−Ring TestでChlamydia反応陽性であった者は70例で60.3%であった。A
Chlamydia反応陽性70例中,Chlamydiazyme検査ないしオウム病抗体価の陽性となったものは41例で58.5%であった。B
Bi-Digital O−Ring TestによるChlamydia反応陽性70症例の年代別分布を調べると40歳代にピークを認めた。C
Chlamydia反応陽性70症例の自覚症状は全身倦怠感,身体の冷え,感冒様症状(鼻炎,咽頭痛,咳),眼症状(腫れ,痛み),耳症状(耳鳴り),上腹部症状(心窩部痛,悪心),下腹部症状(下痢,便秘),泌尿器症状(膀胱炎),婦人科症状(生理不順),神経症状(頭痛,項頸背部痛,腰痛,四肢のシビレ),皮膚症状(湿疹)が見られた。D
Chlamydia反応陽性患者の平均治療期間はエリスロマイシンでは4.8週でシステインでは2.7週であった。Bi-Digital O−Ring Testは臨床において非常に価値のある補助診断技法であると考えられた。
文 献
1)Thygeson,P・:Trachoma and Inclusion Corjunctivitis. in Rivers(eds),Viral and Riclcettsial Intection of Man.pp358〜369.Lippincoff Co. Philadelphia,1948.
2)Oriel, J.D., Ridijwarz,G.L.:Genital infection by chlamydia trachomatis. Pp.53〜67,Edward Arnold Publishers,London,1982.
3)Smith,T.F.:Role of the chagnastir Virology Laboratory in clinical mevobiology:Test for chlamydia trachomatis and en feve toxius in cell culture・In de Ia Maza,L.M,Peterson,E.M.(eds・)Medical vivology,PP.93〜119.Elsenier Biomedical NewYork,1982.
4)橋瓜壮:わが国におけるクラミジア抗体保有率(ELISA法)より引用
5)熊本悦明,恒川琢司,林謙次:Chlamydia trachomatis感染症・現代皮膚科学大系,追補 第1巻・中山書店,PP.204〜213,1987.
6)中尾享:新生児および小児におけるC.trachomatis感染症・クラミジア感染症の基礎と臨床,P.228〜242.